「アスベスト事前調査って、結局何のためにするの?」「私の建物も対象になるの?」そんな疑問をお持ちのあなたへ。近年、建物の解体や改修工事前に必ず行うよう義務付けられた「アスベスト事前調査」。この調査は、アスベストによる健康被害から人々を守るための重要なものです。
この記事では、アスベスト事前調査の目的や対象となる建物、具体的な手順はもちろん、その背景にある法規制の歴史までわかりやすく解説します。これを読めば、アスベスト事前調査の重要性とその必要性を深く理解することができます。
アスベスト事前調査とは?
アスベストが使用されていた建物
アスベストは、天然に産出する繊維状の鉱物で、耐火性、断熱性、保温性に優れていることから、1950年代から1990年代にかけて、建築材料、電気製品、自動車部品など、様々な用途に広く使用されてきました。特に、建物の建築資材として、屋根材、壁材、床材、断熱材、保温材、配管の保温材などに多く使用されました。そのため、古い建物ほどアスベストを含んでいる可能性が高いと言えます。
しかし、アスベストは、その繊維が非常に細く、吸い込むと肺の中にまで入り込みやすく、肺がん、中皮腫、アスベスト肺といった深刻な健康被害を引き起こすことが明らかになりました。そのため、現在では、アスベストの使用は原則として禁止されています。
アスベスト事前調査の目的
アスベスト事前調査は、解体工事や改修工事を行う際に、作業員や周辺住民がアスベストにばく露することを防ぐことを目的としています。具体的には、以下の目的があります。
- 建物の解体工事や改修工事を行う前に、アスベストの使用の有無を把握する。
- アスベストが使用されている場合は、その場所、種類、量などを調査する。
- 調査結果に基づいて、適切なアスベスト除去工事や対策工事の計画を立てる。
アスベスト事前調査を行うことで、アスベストによる健康被害のリスクを最小限に抑え、安全な工事を行うことができます。また、工事関係者だけでなく、周辺住民の健康と安全を守る上でも非常に重要です。
参考資料:
アスベスト事前調査が義務化された背景と経緯
アスベストによる健康被害の歴史
アスベストは、天然に存在する繊維状の鉱物であり、その優れた耐熱性、耐薬品性、絶縁性から、かつては「奇跡の鉱物」として建築材料をはじめ、様々な工業製品に広く使用されていました。日本でも1950年代後半から高度経済成長期にかけて、ビルや住宅、工場、船舶など、あらゆる建造物に大量に使用されました。しかし、アスベストは、吸い込むと肺の中に残り、長い年月を経て中皮腫や肺がんなどの深刻な健康被害を引き起こすことが明らかになりました。
1970年代以降、欧米諸国を中心にアスベストによる健康被害が社会問題化し、アスベストの使用禁止や規制が進められました。日本でも、1975年に「石綿肺」などの病気が労災認定疾病に加えられましたが、アスベストの使用自体は継続されました。その後、2004年に兵庫県尼崎市で発生したクボタショック(クボタ旧工場周辺住民におけるアスベスト被害)を契機に、日本でもアスベスト問題が大きくクローズアップされることとなりました。
アスベスト問題への法規制の動き
クボタショックをきっかけに、日本政府はアスベスト問題への対策を強化することとなりました。2005年には、アスベストによる健康被害を総合的に防止するための法律として、「石綿による健康被害の救済に関する法律」(石綿健康被害救済法)が施行されました。この法律では、アスベスト関連疾患の患者やその家族に対する医療費や年金の支給、アスベスト関連工場の元労働者などへの健康管理手帳の交付などが定められています。また、アスベストを使用した建物の解体時における飛散防止対策の強化なども盛り込まれました。2006年には、アスベストの製造、輸入、使用が原則禁止される「労働安全衛生法」の改正が行われ、アスベストの危険性に対する認識が高まりました。
さらに、2012年には、既存建築物におけるアスベスト含有建材の調査を義務付ける「建築物の解体作業における石綿ばく露防止に関するガイドライン」が国土交通省から示されました。これにより、建物の解体や改修工事を行う前に、アスベスト含有建材の有無を事前に調査することが一般的となりました。そして、2020年には、このガイドラインが改正され、新たに「アスベスト事前調査」が義務化されました。これは、建物の解体や改修工事だけでなく、大規模な修繕や模様替えなどを行う場合にも、事前にアスベストの有無を調査することを義務付けたものです。この義務化は、既存建築物におけるアスベストによる健康被害を未然に防ぐための重要な対策として位置づけられています。
このように、アスベスト問題への法規制は、健康被害の発生状況や社会的な要請を踏まえながら、段階的に強化されてきました。そして、現在では、アスベスト事前調査の義務化など、より予防的な対策に重点が置かれるようになっています。
アスベスト規制の法改正の経緯(抜粋)
年 | 内容 |
---|---|
1975年 | 石綿肺などの病気が労災認定疾病に追加 |
2005年 | 「石綿による健康被害の救済に関する法律」(石綿健康被害救済法)施行 |
2006年 | 労働安全衛生法改正により、アスベストの製造、輸入、使用が原則禁止 |
2012年 | 「建築物の解体作業における石綿ばく露防止に関するガイドライン」策定。解体・改修工事前のアスベスト含有建材調査が義務化 |
2020年 | 「建築物の解体作業における石綿ばく露防止に関するガイドライン」改正。大規模修繕・模様替えなどを行う場合のアスベスト事前調査が義務化 |
アスベスト事前調査に関する法令
アスベスト事前調査は、様々な法律に基づいて義務付けられています。ここでは、特に関係の深い法律を解説します。
大気汚染防止法
大気汚染防止法は、大気を汚染する物質の排出を規制し、国民の健康と生活環境を保護することを目的とする法律です。アスベストは、大気汚染防止法において「特定粉じん発生施設」に該当する施設の解体等を行う際に、事前調査と除去等の措置が必要な物質として規定されています。
- 特定粉じん発生施設:アスベストを一定量以上含有する保温材、断熱材、耐火被覆材等を使用している施設
- 解体等:建物の解体、改修、補修等の工事
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するための法律です。アスベストは、労働安全衛生法において「特定化学物質」に指定されており、事業者は労働者がアスベストにばく露しないよう、様々な措置を講じることが義務付けられています。アスベスト事前調査は、これらの措置を適切に実施するために必要な情報を得るために行われます。
- ばく露:労働者がアスベストを吸入したり、皮膚に接触したりすること
- 措置:アスベストの除去、封じ込め、換気設備の設置、保護具の着用等
石綿障害予防規則
石綿障害予防規則は、労働安全衛生法に基づき、アスベストによる健康被害を予防するための具体的な措置を定めた規則です。この規則では、アスベスト含有建材の種類に応じた事前調査の方法、分析方法、除去等の方法などが細かく規定されています。
- アスベスト含有建材:アスベストを含む建材(レベル1~3に区分)
- 事前調査:建材にアスベストが含まれているか、どのような状態であるかを調べること
建築基準法
建築基準法は、建築物の安全性、機能性、衛生環境などを確保するための基準を定めた法律です。2006年9月以降に建築確認申請がなされた建築物については、建築基準法に基づき、アスベスト含有建材を使用することが原則禁止されています。ただし、特定の条件を満たす場合は、一部のアスベスト含有建材の使用が認められています。
- 建築確認申請:建築物を建築する際に、建築基準法に適合していることを確認するために提出する申請
- 特定の条件:代替材料がない場合、防火性能上必要な場合等
これらの法律は、アスベストの危険性から国民の健康や労働者の安全を守るために制定されました。そのため、それぞれの法律の目的や内容を理解し、適切な対応をとることが重要です。
アスベスト事前調査の対象となる建築物
アスベスト事前調査の対象となる建築物は、以下の基準に基づいて決まります。築年数と建築物の種類が主な判断基準となります。
建築物の築年数
アスベストは、1950年代後半から2000年代初頭にかけて建築資材に広く使用されていました。そのため、この期間に建築された建物は、アスベストを含んでいる可能性が高いとされています。特に、1995年以前に建築された建物は、アスベスト含有建材の使用が規制される以前であるため、注意が必要です。
具体的な築年数による判断基準は以下の通りです。
築年数 | アスベスト含有の可能性 | 備考 |
---|---|---|
1995年以前 | 高い | アスベスト含有建材の使用規制前 |
1995年~2006年 | 比較的高い | 一部の建材でアスベスト使用が継続 |
2006年以降 | 低い | 原則としてアスベストの使用が禁止 |
ただし、2006年以降に建築された建物でも、改修工事などでアスベスト含有建材が使用されている可能性はゼロではありません。築年数に関わらず、注意が必要です。
参考資料:(社)日本石綿協会 |石綿含有建築材料の商品名と製造時期
建築物の種類
アスベストは、その耐火性、断熱性、防音性などから、様々な種類の建築物に使用されていました。特に、以下の種類の建築物は、アスベストを含んでいる可能性が高いと言われています。
- 住宅
- マンション
- オフィスビル
- 工場
- 学校
- 病院
- 商業施設
これらの建築物では、屋根材、外壁材、内装材、断熱材、保温材、防音材など、様々な箇所にアスベストが使用されている可能性があります。
アスベスト事前調査の手順
アスベスト事前調査は、専門知識を持った調査会社に依頼するのが一般的です。ここでは、アスベスト事前調査の大まかな手順と、それぞれの段階における注意点について解説します。
調査会社への依頼
アスベスト事前調査は、建築物の規模や構造、劣化状況によって費用や期間が大きく異なります。そのため、複数の調査会社から見積もりを取り、比較検討することが重要です。見積もりを依頼する際には、以下の点を明確に伝えましょう。
- 調査の目的:解体工事、改修工事、建物の売却など
- 調査対象となる建築物の規模や構造:延床面積、階数、建築年代など
- 調査箇所:全体調査、部分調査など
- 希望納期:いつまでに結果報告が必要か
また、調査会社の選定にあたっては、以下の点も考慮しましょう。
- 経験豊富なスタッフが在籍しているか
- 適切な分析機器を保有しているか
- 過去の調査実績や顧客からの評判はどうか
信頼できる調査会社を選ぶことが、正確な調査結果を得るために重要です。
建築物石綿含有建材調査マニュアル|国土交通省
現地調査
調査会社は、依頼を受けた内容に基づき、現地調査を行います。現地調査では、以下の様な手順で調査が進められます。
建築物の図面確認
まずは、建築物の図面を確認し、アスベスト含有建材が使用されている可能性のある箇所を特定します。図面がない場合は、現地で実測を行い、図面を作成する場合もあります。
目視調査
図面を基に、実際に建物を目視で確認し、アスベスト含有建材が使用されている可能性のある箇所を特定します。劣化が激しい箇所や、アスベスト含有の可能性が高い箇所については、写真撮影などの記録を行います。
試料採取
目視調査でアスベスト含有の可能性が否定できない場合は、試料を採取します。試料採取は、建築物に可能な限り損傷を与えないよう、慎重に行われます。採取した試料は、分析機関に送られ、アスベストの有無や種類を分析します。
試料採取方法 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
削り取り法 | 一般的な試料採取方法。専用の工具を用いて、建材の一部を削り取って採取する。 | 粉じんの飛散に注意が必要。 |
コア抜き法 | 壁や床などから、円柱状の試料を採取する方法。 | 建材に大きな孔が開くため、補修が必要となる。 |
剥ぎ取り法 | 壁紙や床材など、表面材を剥ぎ取って試料を採取する方法。 | 下地材を傷つける可能性がある。 |
試料採取の際には、粉じんの飛散を防ぐため、湿潤剤や局所排気装置を使用するなどの対策が講じられます。
分析・結果報告
採取した試料は、分析機関に送られ、アスベストの有無や種類、含有率などを分析します。分析には、偏光顕微鏡法やX線回折法などの方法が用いられます。
分析結果に基づく報告書作成
分析結果に基づき、調査会社は報告書を作成します。報告書には、以下の様な内容が記載されます。
- 調査概要:調査目的、調査対象建築物、調査期間など
- 調査結果:アスベストの有無、種類、含有率、試料採取箇所など
- 判定結果:アスベスト含有建材に該当するかどうか
- 今後の対応:アスベスト含有建材に該当する場合の対応策など
結果報告と今後の対応策の検討
調査会社は、報告書の内容を依頼者に説明し、アスベストが検出された場合には、その後の対応策について協議します。対応策としては、以下の様なものが考えられます。
- アスベスト含有建材の除去
- アスベスト含有建材の封じ込め
- 建物の解体
対応策は、建築物の用途や劣化状況、費用などを考慮して、依頼者と調査会社が協議の上決定します。場合によっては、行政機関への届出や許可申請が必要となる場合もあります。
事業主の方々へ(アスベスト)|厚生労働省
アスベスト事前調査は、建物の安全性を確保するために非常に重要な手続きです。専門知識を持った調査会社に依頼し、適切な調査と対応を行うようにしましょう。
まとめ
今回は、アスベスト事前調査の義務化に関する法令とその背景、調査対象や手順について解説しました。アスベストによる健康被害は深刻であり、それを予防するために事前調査と適切な対策が不可欠です。特に、1958年以前に建築された建物はアスベスト含有の可能性が高いため、解体や改修工事を行う前に必ず専門業者による調査を行いましょう。法令に基づいた適切な対応を心がけ、安全な生活環境を確保することが重要です。
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