アスベスト訴訟:過去の事件・事故から学ぶ!訴訟事例と損害賠償

アスベスト

アスベストによる健康被害は深刻で、知らないうちに曝露していた方もいるかもしれません。アスベスト訴訟は複雑で、どこに相談すれば良いのか、どのような賠償が受けられるのか、不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、アスベスト訴訟の全体像を分かりやすく解説します。アスベストの種類や危険性、過去の事件・事故から日本のアスベスト問題の歴史までを紐解き、建設現場や工場、周辺住民といった異なる立場での訴訟事例と損害賠償額の目安、訴訟の流れと必要な準備について詳しく説明します。
この記事を読むことで、アスベスト訴訟の基本的な知識を習得し、ご自身の状況に合った適切な行動をとるための判断材料を得ることができます。また、クボタショックやニチアス事件といった過去の事例から学ぶことで、アスベスト問題の深刻さを理解し、予防策についても考えるきっかけとなるでしょう。

アスベストとは何か

アスベスト(石綿)とは、天然に産出する繊維状の鉱物です。耐熱性、耐薬品性、絶縁性などに優れていることから、建材をはじめ、様々な工業製品に広く利用されてきました。

アスベストの種類と用途

アスベストは、大きく分けて蛇紋石系と角閃石系の2種類に分類されます。蛇紋石系にはクリソタイル(白石綿)があり、アスベストの中で最も多く使用されていました。角閃石系にはクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの5種類があります。角閃石系はクリソタイルに比べて耐久性が高い反面、毒性も強いとされています。

種類用途例
クリソタイル(白石綿)建材(屋根材、壁材、床材、断熱材、保温材など)、ブレーキライニング、パッキン、ガスケットなど
クロシドライト(青石綿)断熱材、保温材、耐火被覆材、ろ過材など
アモサイト(茶石綿)保温材、断熱材、ろ過材など
アンソフィライト断熱材、保温材など
トレモライト断熱材、保温材など
アクチノライト断熱材、保温材など

出典:環境省 石綿に関する基礎知識

アスベストの危険性

アスベストは、非常に細かい繊維であるため、吸い込むと肺の奥深くまで到達します。そして、肺がん、悪性中皮腫、アスベスト肺などの深刻な健康被害を引き起こすことが知られています。これらの病気は、アスベストに曝露してから数十年後に発症することもあります。

アスベストによる健康被害は、アスベストの粉じんを吸入することによって発生します。そのため、アスベストを扱う作業に従事していた労働者だけでなく、アスベストを使用した建物の解体作業や、アスベスト工場の周辺住民なども健康被害のリスクがあります。

出典:アスベスト(石綿)による健康被害|独立行政法人環境再生保全機構

アスベスト関連の事件・事故

アスベストは「静かな時限爆弾」とも呼ばれ、その危険性が認識されるまで、建材や工業製品に広く使用されていました。 アスベストによる健康被害は潜伏期間が長く、発症までに数十年かかる場合もあります。そのため、過去の事件・事故を振り返り、その深刻さを理解することは、現在そして未来の被害を防ぐ上で非常に重要です。

日本のアスベスト問題の歴史

日本では、1950年代からアスベストの使用量が急増し、1990年代にピークを迎えます。しかし、アスベストによる健康被害が明らかになるにつれ、規制が強化されていきました。2006年には、アスベストを含有する建材などの製造、輸入、使用等が原則禁止となりました。しかし、既存の建物にはアスベストが使用されている可能性があり、現在もなお問題となっています。アスベスト問題の歴史を理解することは、現在の問題解決への糸口となります。

年代出来事
1950年代アスベストの使用量が急増
1970年代アスベストによる健康被害が報告され始める
1995年建設省(現国土交通省)がアスベスト対策の指針を発表
2005年クボタショック
2006年アスベスト含有建材などの製造、輸入、使用等が原則禁止
2012年アスベストによる健康被害を受けた元労働者や遺族による訴訟で国と建材メーカーの責任を認める判決が確定

出典:国内外におけるアスベストに係る規制状況chpt5_環境省

主なアスベスト事件・事故

アスベスト問題の歴史において、いくつかの象徴的な事件・事故が存在します。これらの事件・事故は、社会に大きな衝撃を与え、アスベスト問題への意識を高める転機となりました。

クボタショック

2005年に発覚した、クボタ旧神崎工場の元従業員や周辺住民らがアスベストによる健康被害を訴えた事件です。この事件は「クボタショック」と呼ばれ、アスベスト問題が社会問題として大きく取り上げられるきっかけとなりました。多くの企業でアスベスト健康被害の調査が始まり、被害者救済の動きが加速しました。

出典:クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<1> _ 全国労働安全衛生センター連絡会議

ニチアス事件

ニチアスの元従業員やその家族らがアスベストによる健康被害を訴えた事件です。最高裁判所は、2014年に国とニチアスの責任を認め、賠償を命じる判決を下しました。この判決は、アスベスト訴訟における国の責任を明確にした重要な判決となりました。

出典:ニチアス羽島工場事件判決|名古屋労災職業病研究会 

アスベスト訴訟の種類と流れ

アスベスト訴訟は、アスベスト被害を受けた場所や立場によって、いくつかの種類に分けられます。主な種類としては、建設現場、工場、周辺住民による訴訟が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

建設現場におけるアスベスト訴訟

建設現場は、過去にアスベストが大量に使用されていた場所であり、多くの労働者がアスベストに曝露していました。そのため、建設現場におけるアスベスト訴訟は最も多く発生している訴訟類型の一つです。建物の解体、改修工事、建築工事などに従事していた作業員が原告となるケースが多く、建物の所有者や元請け業者などを被告として訴訟を起こします。

対象となる工事の種類としては、建築工事全般(躯体工事、内装工事、設備工事など)、土木工事、解体工事など が挙げられます。また、アスベスト含有建材の製造、運搬、販売に関わっていた企業も訴訟の対象となる可能性があります。

工場におけるアスベスト訴訟

アスベストは、工場でも断熱材や保温材などとして広く使用されていました。そのため、工場で働いていた労働者もアスベスト被害のリスクに晒されていました。工場におけるアスベスト訴訟は、アスベスト製品の製造工場だけでなく、アスベストを使用していた工場で働いていた労働者も原告となるケースがあります。被告は、工場の経営者やアスベスト製品の製造業者などが考えられます。

対象となる工場の種類としては、アスベスト製品製造工場(建材、ブレーキライニング、断熱材など)、造船所、鉄鋼所、化学工場などが挙げられます。アスベストを使用していた設備の保守点検作業に従事していた労働者も被害を受けている可能性があります。

周辺住民によるアスベスト訴訟

アスベスト工場やアスベストを使用していた建設現場の周辺住民も、アスベスト被害を受ける可能性があります。周辺住民によるアスベスト訴訟は、工場や建設現場から飛散したアスベストを吸い込んで健康被害を受けた住民が原告となり、工場や建設現場の経営者などを被告として訴訟を起こします。長期間にわたりアスベストに曝露されていたことが証明できれば、訴訟を起こすことが可能です。

訴訟を起こすためには、アスベスト曝露と健康被害の因果関係を証明する必要があります。そのため、医療機関での診断書や専門家の意見書などが重要な証拠となります。また、過去のアスベスト使用状況や周辺環境の調査も必要となる場合があります。

訴訟の流れと必要な準備

アスベスト訴訟の流れと必要な準備は以下の通りです。

段階内容必要な準備
1. 相談弁護士や労働基準監督署などに相談し、アスベスト訴訟の可能性や手続きについて確認します。アスベスト曝露の状況、健康診断の結果など
2. 証拠収集アスベスト曝露の事実を証明するための証拠を集めます。雇用契約書、作業内容の記録、健康診断の結果、医師の診断書、同僚の証言など
3. 損害賠償請求加害者に対して損害賠償を請求します。損害賠償請求書、証拠書類
4. 交渉・調停加害者と交渉を行い、示談による解決を目指します。調停が不調に終わった場合は、訴訟に移行します。交渉・調停資料
5. 訴訟裁判所に訴訟を提起し、判決を求めます。訴状、証拠書類

アスベスト訴訟は専門的な知識が必要となるため、弁護士に相談することが重要です。弁護士は、証拠収集や訴訟手続きなどをサポートし、適切な損害賠償額を請求するためのアドバイスを提供します。また、厚生労働省のウェブサイトでもアスベスト訴訟に関する情報が提供されています。

アスベスト訴訟の事例と損害賠償

アスベスト訴訟において、損害賠償の範囲はケースバイケースですが、一般的に認められる項目と、具体的な訴訟事例を以下に示します。

訴訟事例1 製造工場勤務の事例

Aさんは、ブレーキ製造工場で20年間アスベスト含有製品の加工に従事していました。2018年に悪性中皮腫を発症し、労災認定を受けました。その後、国と製造会社に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。

請求できる損害賠償項目

損害賠償項目内容
治療費検査費用、入院費用、手術費用、薬剤費、通院交通費など
逸失利益病気にならなかった場合に得られたであろう将来の収入
慰謝料身体的・精神的苦痛に対する賠償
介護費用介護が必要になった場合の費用
葬儀費用死亡した場合の葬儀費用

Aさんのケースでは、国と製造会社が連帯して約4,000万円の賠償金を支払う判決が確定しました。

訴訟事例2 建設現場作業員の事例

Bさんは、建設現場で30年間、アスベスト含有建材の取り扱い作業に従事していました。2020年に肺がんを発症し、労災認定を受けました。その後、元請け建設会社と建材メーカーに対して損害賠償請求訴訟を提起しました。

請求できる損害賠償項目

損害賠償項目内容
治療費検査費用、入院費用、手術費用、薬剤費、通院交通費など
逸失利益病気にならなかった場合に得られたであろう将来の収入
慰謝料身体的・精神的苦痛に対する賠償
介護費用介護が必要になった場合の費用
後遺症による逸失利益後遺症によって労働能力が低下した場合の収入の減少分

Bさんのケースでは、元請け建設会社と建材メーカーが連帯して約3,000万円の賠償金を支払う判決が確定しました。

訴訟事例3 周辺住民の事例

Cさんは、アスベスト工場の近隣に20年間居住していました。2022年に中皮腫を発症し、労災認定に準じる救済制度の認定を受けました。その後、工場を運営していた会社に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。

請求できる損害賠償項目

損害賠償項目内容
治療費検査費用、入院費用、手術費用、薬剤費、通院交通費など
逸失利益病気にならなかった場合に得られたであろう将来の収入
慰謝料身体的・精神的苦痛に対する賠償
介護費用介護が必要になった場合の費用
財産的損害アスベストによる住宅等の汚染被害

Cさんのケースでは、工場を運営していた会社が約2,500万円の賠償金を支払う判決が確定しました。

これらの事例はあくまで一例であり、損害賠償額は個々のケースによって大きく異なります。アスベスト訴訟を検討する際は、弁護士等の専門家に相談することが重要です。

まとめ

アスベストによる健康被害は深刻であり、発症までに長い潜伏期間があることが特徴です。この記事では、アスベストの種類や危険性、過去の事件・事故、そして訴訟の種類や流れ、損害賠償について解説しました。クボタショックやニチアス事件といった過去の事例は、アスベスト問題の深刻さを改めて認識させるものです。建設現場や工場での作業員だけでなく、周辺住民も被害を受ける可能性があり、アスベスト訴訟は様々な形で起こりえます。

訴訟を起こす際には、アスベストへの曝露と健康被害の因果関係を証明することが重要です。そのため、医療機関での診断書や就業履歴、曝露状況を証明する資料などが不可欠となります。損害賠償としては、治療費や逸失利益、慰謝料などが請求できます。具体的な請求額は、被害の程度や個々の状況によって異なります。アスベスト問題に直面している方は、専門家である弁護士に相談することで、適切なアドバイスとサポートを受けることができます。早期の相談が、より良い解決への近道となるでしょう。

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