PFOS・PFOAの分析方法と規格基準2024年最新版|水道水・食品・化学製品の検査方法

PFAS/PFOS

本記事では、有機フッ素化合物のPFOS・PFOAについて、水道水・食品・化学製品における分析方法と最新の規格基準を解説します。環境省や厚生労働省が定める暫定目標値に基づく検査手順から、LC-MS/MSやGC-MSといった最新の分析機器による測定技術、QuEChERS法などの効率的な前処理方法まで、具体的な手順を徹底解説。さらに、コンタミネーション対策や精度管理など、信頼性の高い分析結果を得るためのポイントも詳しく説明します。2024年に対応した規制動向や基準値の情報とともに、分析機関への依頼方法や費用の目安まで、PFOS・PFOA分析に関する実務的な知識を包括的に得ることができます。

ブンセキちゃん
ブンセキちゃん

ニュースで話題になっているPFOS・PFOAによる環境汚染

分析方法や検査方法を見ていきましょう。

PFOS・PFOAとは 基本的な特徴と危険性

PFOS・PFOAの化学的特性と用途

PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、有機フッ素化合物の一種です。炭素-フッ素結合が非常に強固で、熱や化学物質に対して極めて安定な特性を持っています

これらの化合物は、以下のような特徴的な性質を持ちます:

特性詳細
化学的安定性通常の環境条件下で分解されにくい
撥水性・撥油性水や油をはじく性質が強い
界面活性表面張力を低下させる効果が高い

主な用途としては、以下の製品に使用されてきました:

・消火剤(泡消火剤)
・撥水撥油加工(衣類、カーペット)
・フッ素樹脂の製造助剤
・半導体製造工程での使用
・食品包装材料

人体や環境への影響

PFOS・PFOAは生体内で分解されにくく、体内に蓄積する性質があります。長期的な曝露により、以下のような健康影響が懸念されています

・肝機能への悪影響
・甲状腺機能障害
・生殖機能への影響
・発がんリスクの増加
・免疫系への影響

環境省のレポートによると、環境中での残留性が高く、生物濃縮性があることが確認されています。

国内外での規制状況

日本では化審法において、PFOSは2010年に第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入・使用が原則禁止されています。PFOAも2021年10月より第一種特定化学物質に指定されました

規制項目PFOSPFOA
規制開始年2010年2021年
規制内容製造・輸入・使用の原則禁止製造・輸入・使用の原則禁止
例外用途半導体用途など一部のみ許可一部の工業用途で許可

国際的には、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)において、PFOSは2009年に、PFOAは2019年に残留性有機汚染物質(POPs)として規制対象に追加されています。

出典:環境省 PFOS、PFOA 以外の PFAS に係る国際動向

水道水におけるPFOS・PFOA分析方法と基準値

水道水中のPFOS・PFOAは、人々の健康に直接影響を与える可能性があるため、適切な分析と管理が不可欠です。厚生労働省は2020年に水道水中のPFOS及びPFOAの暫定目標値を合計値で50ng/L(0.05µg/L)と設定しています。

水道水の暫定目標値と規制状況

水道水における規制状況は以下の通りです:

項目基準値設定年備考
PFOS・PFOA合計50ng/L2020年暫定目標値
要検出下限値1.0ng/L2020年各物質につき

水道事業者は定期的なモニタリングを実施し、暫定目標値を超過した場合には、活性炭処理の強化などの浄水処理の徹底が求められています

固相抽出LC-MS/MSによる分析手順

水道水中のPFOS・PFOAの分析は、主に以下の手順で行われます:

1. 前処理:試料水500mLをPFOS・PFOA分析用のカートリッジで固相抽出

2. 溶出:メタノールで目的物質を溶出

3. 濃縮:窒素気流下で濃縮

4. 測定:LC-MS/MS(液体クロマトグラフタンデム質量分析計)で定量

水質検査機関での測定方法

水質検査機関では、厚生労働省が定める標準検査法に基づき、固相抽出-LC-MS/MS法を用いて分析を実施します

具体的な分析条件は以下の通りです:

分析項目条件
カラムC18系逆相カラム
移動相メタノール/水系
イオン化法ESI(-)モード
定量下限値1.0ng/L

精度管理のため、以下の点に特に注意を払う必要があります:

・ブランク試験による汚染確認
・サロゲート物質による回収率確認
・検量線の直線性確認(R2≧0.995)
・二重測定による再現性確認

分析時には、PFASによる器具や装置の汚染を防ぐため、テフロン製の器具の使用を避け、ガラス器具やステンレス製器具を使用することが推奨されています

水質検査の信頼性を確保するため、厚生労働省が定める水質基準に関する省令の規定に基づき、水道により供給される水の水質検査方法に準拠して分析を行うことが求められています。

食品中のPFOS・PFOA分析方法

食品中のPFOS・PFOAの分析は、その複雑な食品マトリックス(混合物・添加物などにより狭窄物が多い)のため、高度な前処理技術と精密な分析機器が必要です。一方で、分析手法については、米国食品医薬品局(FDA)が開発した分析法に基づき検証し、国内で入手可能な機器、器具、試薬等を用いた農産物(穀類、葉菜類)を対象とするPFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの4種の分析法の標準作業手順書が、厚生労働省より開示されています。

厚生労働書 | 農産物中のPFOS、PFOA、PFHxS、PFNA の分析法(標準作業手順書)

農作物とありますが、食品中のPFOS・PFOA分析における、国内唯一の公定法となります。

食品からの抽出方法

食品からのPFOS・PFOA抽出には、以下の手順が一般的に用いられます:

工程手順重要ポイント
試料の前処理均一化・(凍結)粉砕代表性の確保
溶媒抽出メタノール添加完全な抽出の実現
遠心分離3000rpm・5分×2回夾雑物の分離

QuEChERS法による前処理

QuEChERS法は、食品中のPFOS・PFOA分析において最も効率的な前処理方法の一つとして広く採用されております。この方法は以下の特徴を持ちます:

基本的な手順として:

  • アセトニトリルによる抽出
  • 塩析による水層分離
  • 分散固相抽出による精製
  • 遠心分離による清澄化

前処理におけるポイントとして:

  • 試料量は10g程度が最適
  • 抽出溶媒は試料量の2倍量
  • 内標準物質の添加による回収率確認

食品中の基準値と許容範囲

食品中のPFOS・PFOAの基準値は、国や地域によって異なっており、耐量一日摂取量(TDI)が0.03~160ng/kg体重/日 とばらついています。日本では食品安全委員会による耐容一日摂取量(TDI)が 20ng/kg体重/日 に設定されました

分析における検出限界は、使用する機器や前処理方法によって異なりますが、標準作業手順書(LC-MS/MS法による)を用いた場合、10ng/kg程度となります。

工業製品・化学製品中のPFOS・PFOA分析

工業製品や化学製品中のPFOS・PFOAの分析は、製品の種類や性状によって適切な前処理方法を選択する必要があります。特に、撥水加工製品や界面活性剤を含む製品では、マトリックスの影響を考慮した分析手法が求められます。なお、主な分析手法として、欧州規格である CEN/TS 15968:2010 が用いられることが多くなっています。

化学製品からの抽出手順

化学製品からのPFOS・PFOA抽出には、主に以下の方法が用いられます:

製品種類抽出方法使用溶媒
撥水加工繊維ソックスレー抽出メタノール
界面活性剤液液抽出アセトニトリル/水
フッ素樹脂加熱還流抽出テトラヒドロフラン

抽出効率を向上させるため、超音波処理や加温処理を組み合わせることが推奨されています。特に、フッ素樹脂製品からの抽出では、高温条件下での処理が必要となります。

機器分析による定量方法

抽出後の試料は、適切な機器分析方法を選択して定量を行います。現在、最も一般的に用いられているのは液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)による分析です。

液体クロマトグラフ質量分析計による測定

LC-MS/MSによる分析では、以下の条件が一般的に採用されています:

項目条件
カラムC18逆相カラム(2.1 mm × 150 mm, 3 μm)
移動相A液:10 mM 酢酸アンモニウム水溶液、B液:メタノール
イオン化法ESIネガティブモード

ガスクロマトグラフ質量分析計による測定

揮発性が高い関連化合物の分析には、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)が使用されます。特にフッ素テロマーアルコール(FTOH)などの分析に有効です。

GC-MSによる分析条件の例:

パラメータ設定値
カラムDB-5MS(30 m × 0.25 mm, 0.25 μm)
注入口温度250℃
キャリアガスヘリウム(1.0 mL/min)

PFOS・PFOA分析における注意点と精度管理

PFOS・PFOAの分析においては、試料の取り扱いから測定まで、様々な段階で注意が必要です。特に、これらの物質は極微量分析が求められるため、精度管理が極めて重要となります。

コンタミネーション対策

PFOS・PFOAは日用品にも含まれているため、分析時のコンタミネーションリスクが非常に高い物質です。以下の点に特に注意が必要です。

汚染源対策方法
テフロン製器具ガラス製またはステンレス製の器具を使用
防汚加工された作業着未加工の実験衣の着用
化粧品・ハンドクリーム使用を控え、手袋を着用

標準物質の取り扱い

分析の信頼性を確保するため、標準物質の適切な管理が不可欠です。標準物質は、国立環境研究所や産業技術総合研究所が提供する認証標準物質を使用することが推奨されます

保管時の注意点:

  • 遮光した密閉容器での保管
  • 温度管理(4℃以下)
  • 使用期限の厳守
  • 濃度既知の検量線用標準液の定期的な調製

測定値の信頼性確保

精度管理において最も重要なのは、測定値の信頼性を確保するための手順と記録の管理です。以下の項目を定期的に実施することが求められます。

管理項目実施頻度許容基準
装置の感度確認毎日変動係数10%以内
ブランク試験バッチごと検出限界以下
添加回収試験月1回以上回収率70-120%

測定データの品質管理には、環境省が定める「要調査項目等調査マニュアル」に準拠した手法を採用することが推奨されます。

分析結果の品質管理として、化学物質環境実態調査におけるLC/MSを用いた化学物質の分析法とその解説(環境省)に基づき、検量線の直線性確認や回収率の評価を実施することが重要です。

また、分析機関としての技能試験への参加や、内部精度管理の実施も重要です。精度管理の記録は以下の項目を含めて文書化します:

  • 分析条件の設定根拠
  • 標準物質の管理記録
  • 装置の保守点検記録
  • 測定値の不確かさの評価
  • トレーサビリティの確保

測定結果の信頼性を確保するためには、ISO/IEC 17025に基づく品質マネジメントシステムの導入も効果的です。これにより、国際的に認められた分析結果を提供することが可能となります。

分析機関の選び方と依頼方法

PFOS・PFOAの分析を依頼する際は、分析機関の選定が重要です。信頼性の高い分析結果を得るために、公的認証を受けた機関や実績のある検査機関を選ぶことが推奨されます

分蔵検蔵(IMIC)でのPFOS・PFOA分析

分蔵検蔵(IMIC)は、環境省が認定する環境計量証明事業所と提携ラボと提携して、水質・大気・土壌などの環境分析を行っています。PFOS・PFOAを含むPFASの分析においては、最新のLC-MS/MS装置ないしはGC-MS/MSを用いた高精度な分析を提供しています。

分析の信頼性を担保するため、以下の品質管理体制を整えていることが望ましいです:

項目内容
精度管理ISO/IEC 17025に準拠した品質マネジメントシステム
技術者資格環境計量士による分析実施
クロスチェック複数の分析者による結果確認

分析費用の目安

分析費用は試料の種類や数量によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです:

試料種類標準価格(税抜)納期
水質試料30,000円~7営業日
食品試料45,000円~10営業日
工業製品50,000円~14営業日

サンプリング方法と送付手順

適切なサンプリングは分析結果の信頼性を左右する重要な要素です。以下の手順に従ってサンプリングを実施してください:

試料タイプ採取方法必要量
水質試料ガラス容器使用、冷蔵保存1L以上
食品試料アルミホイル包装、冷凍保存500g以上
工業製品汚染防止包装、室温保存100g以上

試料の送付時には、コンタミネーション防止のため、以下の点に注意が必要です:

  • フッ素樹脂製の容器や器具は使用しない
  • 試料採取日時と保存条件を記録する
  • クーラーボックスを使用し、適切な温度管理下で輸送する
  • 分析依頼書に試料の詳細情報を記入する

まとめ

PFOS・PFOAの分析は、高度な技術と精密な機器を必要とする専門性の高い検査です。水道水では、厚生労働省が定める暫定目標値である50ng/L以下を確認するため、固相抽出LC-MS/MSによる分析が標準的な手法となっています。食品分析では、島津製作所やアジレント・テクノロジーの最新機器を用いたQuEChERS法による前処理が効果的です。化学製品の分析では、対象物質によりLC-MSではなくGC-MSを使用するなど、分析機器及び分析手法の正確な選定による高精度な定量性が求められます。分析時のコンタミネーション防止と、富士フィルム和光純薬工業などが提供する標準物質による精度管理が重要なポイントとなります。分析費用は1検体あたり2〜5万円が一般的で、検査所などへの依頼時は適切なサンプリング方法の遵守が不可欠です。信頼性の高い分析結果を得るためには、最適かつ十分な機材・施設の整った分析機関への依頼をお勧めします。

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