最近ニュースで耳にする機会が増えた「PFAS(ピーファス)」について、正しく理解できていますか?
この「永遠の化学物質」と呼ばれるPFASは、私たちの身の回りの製品に広く使われている一方で、健康や環境への深刻な影響が懸念されています。
本記事では、PFASの基本的な仕組みから日本国内の汚染状況、そして私たちが日常生活でできる具体的な対策まで、専門的な内容を分かりやすく解説します。
1はじめに
1.1 最近よく聞く「PFAS」って何?
近年、ニュースや新聞で「PFAS」という言葉を目にする機会が増えていませんか?水道水の汚染問題や環境への影響として報道されることが多いこの物質について、「一体何なのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
PFASは「ピーファス」と読み、正式には「パー・アンド・ポリフルオロアルキル物質(Per- and polyfluoroalkyl substances)」の略称です。
実は、私たちの身の回りにある多くの製品に使用されている化学物質で、フライパンのコーティングや撥水加工した衣類、食品包装材など、日常生活のあらゆる場面で活用されています。
しかし、その便利さの一方で、環境中で分解されにくく長期間残留するため「永遠の化学物質」とも呼ばれ、健康や環境への影響が世界的に懸念されています。
1.2 この記事でわかること
この記事では、PFASについて知っておくべき基本的な知識から、私たちの生活にどのような影響を与える可能性があるのか、そして日常でできる対策まで、分かりやすく解説します。
具体的には以下の内容をお伝えします。
- PFASの基本的な特徴と「永遠の化学物質」と呼ばれる理由
- 私たちの身の回りでの使用用途と健康・環境への影響
- 日本国内における汚染状況と検出データ
- 水道水の安全性や食品への影響
- 家庭でできる具体的な対策方法
正しい知識を身につけることで、過度に恐れることなく適切に対処していくことができます。PFASと上手に向き合っていくための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。
2. PFASって、そもそも何?
PFASとは、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物のことを指します。
主に炭素とフッ素の化合物で分類の仕方により数が異なりますが1万種類以上の物質があるとされています。炭素とフッ素の強い結合により、極めて安定した性質を持っています。
PFASの一種であるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸、通称ピーフォス)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸、通称ピーフォア)は、1940年代から工業用途で使用されており、撥水性、耐熱性、耐薬品性などの優れた特性により、私たちの身の回りの様々な製品に使われてきました。
しかし、その安定性ゆえに環境中で分解されにくく、生物の体内に蓄積しやすいという問題が明らかになっています。
残留性有機化合物による人の健康と環境の保護を目的とするストックホルム条約(POPs条約)が2004年に発効され、PFOS(2009年)、PFOA(2019年)が規制、ついで2022年にPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸、通称ヘキサエス)が追加され、意図的な製造・輸入等が規制されています。
2.1 「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」と呼ばれる理由
PFASが「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」と呼ばれるのは、自然環境では実質的に分解されないためです。炭素とフッ素の結合は化学結合の中でも最も強いもののひとつで、紫外線や熱、微生物による分解を受けません。

2.2 私たちの暮らしのどこで使われているの?
PFASは日常生活の様々な場面で使用されており、知らず知らずのうちに接触している可能性があります。主な用途は以下の通りです。
調理器具・食品包装では、フライパンのテフロン加工、食品の包装紙、電子レンジ用ポップコーン袋などに使用されています。撥水・撥油性により、食材がくっつきにくく、油分が染み出ないようにする効果があります。
衣類・繊維製品では、アウトドア用のレインウェア、カーペット、ソファなどの撥水加工に使用されています。水や汚れを弾く機能を提供しています。
化粧品・パーソナルケア製品では、口紅、ファンデーション、日焼け止めなどに使用され、持続性や耐水性を高める効果があります。
工業用途では、泡消火薬剤、半導体製造、航空宇宙産業、自動車部品などで使用されています。
特に消火薬剤は空港や石油化学工場での火災消火に重要な役割を果たしています。
2.3 PFOSとPFOAの違いは?
PFASの中でも特に注目されているのが、PFOSとPFOAです。これらは最もよく研究されており、健康への影響が明確になっている代表的なPFASです。
なお、PFHxSについては研究段階であるため確定的な知見はありません
| 項目 | PFOS | PFOA |
|---|---|---|
| 主な用途 | 泡消火泡、撥水加工剤、界面活性剤 | テフロン製造、撥水加工剤 |
| 規制状況 | 2009年に規制 | 2019年に規制 |
| 体内半減期 | 約5年 | 約3年 |
| 主な健康影響 | 免疫機能への影響、発がん性 | 腎臓がん、精巣がん、高コレステロール |
両物質とも国際的に使用が制限されていますが、過去の使用により環境中に広く残存しており、現在も検出され続けています。また、これらの規制を受けて代替物質が開発されていますが、多くの代替品も同様のPFAS系化合物であり、長期的な安全性については研究が続けられています。
参考文献:「PFOS・PFOAに関するQ&A集(案)」2024.8 環境省 https://www.env.go.jp/content/000140370.pdf
3. 何が「悪い」と言われているの?
PFASが「悪い」と言われる理由は、主に人体への健康影響と環境への影響の2つに分けられます。分解されにくい性質により、体内や環境中に蓄積し続けることが最大の問題となっています。
3.1 体への影響は?
PFASは体内に入ると排出されにくく、長期間にわたって蓄積される特徴があります。血液中の半減期はPFOSで約5年、PFOAで約3年と非常に長いことが分かっています。
これまでの研究で報告されている主な健康への影響は以下の通りです。

3.1.1 専門機関による発がん性の評価
国際がん研究機関(IARC)は2023年にPFOAを「グループ1(人に対して発がん性がある)」、PFOSを「グループ2B(人に対して発がん性の可能性がある)」に分類しました。これは科学的証拠に基づく重要な評価となっています。
3.1.2 国が定めている目標値
日本では2020年4月から、水道水におけるPFOS及びPFOAの暫定目標値を合計で50ng/Lと設定しています。
これは予防的な観点から定められた値で、この値を超えない限り健康に悪影響が生じるものではないとされています。
参考文献:「PFOS、PFOAに関するQ&A集」及び「PFASに関する今後の対応の方向性」等について(環境省)
PFOA(パーフルオロオクタン酸)及びPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に対する国際がん研究機関(IARC)の評価結果に関するQ&A(食品安全委員会)
3.2 環境への影響は?
3.2.1 自然界で分解されにくい
PFASが「永遠の化学物質」と呼ばれる最大の理由は、炭素とフッ素の結合が極めて強固で、自然環境下では分解されないことです。通常の生物学的分解や物理的・化学的分解プロセスでは除去できません。
そのため、一度環境中に放出されると以下のような問題が生じます:
- 地下水や河川水に長期間残留
- 土壌中での蓄積
- 大気中を長距離移動し、北極などの遠隔地でも検出
- 食物連鎖を通じた生物濃縮
4. 日本の汚染状況はどうなっているの?
4.1 全国の検出状況
日本国内では、2020年頃から本格的なPFAS(有機フッ素化合物)の調査が開始されており、全国各地で検出が報告されています。環境省による全国調査では、全47都道府県の水環境からPFOSやPFOAが検出されており、これまで考えられていた以上に広範囲にわたって汚染が進んでいることが明らかになりました。
特に注目すべきは、都市部だけでなく農村部や山間部からも検出されていることで、これは大気を通じた広域汚染や、過去に使用された製品からの長期間にわたる溶出が原因と考えられています。
4.2 なぜここで?PFASが多く検出される地域の特徴
日本国内でPFAS濃度が特に高い地域には、いくつかの共通した特徴があります。
最も顕著なのは、米軍基地や自衛隊基地周辺での高濃度検出です。これらの施設では、航空機火災の消火訓練や実際の消火活動でPFASを含む泡消火剤が長年使用されてきたためです。
東京都の多摩地域や沖縄県では、特に高い濃度が検出されており、地下水や河川水から暫定目標値を大幅に超える数値が報告されています。また、工業地帯や化学工場の周辺地域でも、製造工程で使用されたPFASが環境中に放出されたケースが確認されています。
さらに、人口密集地や都市部では生活用品由来のPFASも検出されており、撥水加工された衣類、食品包装材、化粧品などからの日常的な放出が蓄積していると考えられています。
これらの地域では、住民の血液検査においても一般地域と比較して高いPFAS濃度が検出されることが多く、環境汚染と人体への影響の関連性を示す重要な証拠となっています。
現在、これらの高濃度検出地域では、汚染源の特定と除去対策、住民の健康調査が継続的に実施されています。
5. 私たちの生活への影響と対策
PFASによる汚染が明らかになる中、私たちの日常生活にどのような影響があるのか、そしてどのような対策を取ることができるのかを具体的に見ていきましょう。
5.1 水道水は安全なの?
現在、日本の水道水におけるPFAS濃度は、全ての地点で暫定目標値を達成しています。また、多くの地域で世界保健機関(WHO)や米国環境保護庁(EPA) が設定する目標値を下回っています。
水道事業者は定期的な水質検査を実施し、必要に応じて浄水処理の強化や水源の変更などの対策を講じています。特に活性炭処理や逆浸透膜処理などの高度浄水処理技術により、PFAS濃度の低減が図られています。
環境省と国土交通省による水道事業者等で実施された水質検査の結果、2020年度は、466事業所のうち11事業所で目標値を上回ったものの、水源切替えや活性炭処理などの措置により年々減少し2024年度に検査を実施した1745事業所すべてにおいて暫定目標値(50ng/L)を下回っています。

出典:環境省ホームページ (https://www.env.go.jp/water/pfas/faq010.html)
5.1.1 家庭でできる対策
家庭レベルでの水道水対策として、以下の方法が有効とされています:
| 対策方法 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 活性炭フィルター | 一定のPFAS除去効果 | 定期的な交換が必要 |
| 逆浸透膜浄水器 | 高いPFAS除去効果 | 初期費用が高額 |
| 煮沸 | 効果なし | PFASは熱に安定 |
ただし、過度な心配は不要であり、まずは地域の水質検査結果を確認することが重要です。
5.2 食べ物への影響は?
PFASは食品包装材や調理器具から食品に移行する可能性があります。特に撥水性や耐油性を持つ包装材、テフロン加工のフライパンなどから検出されることがあります。
魚介類においては、汚染された水域で採れたものからPFASが検出される事例があります。しかし、現在のところ日本の市場に流通している食品のPFAS濃度は、健康への急性的な影響を及ぼすレベルではないとされています。
5.2.1 国や自治体の取り組み
厚生労働省は食品中のPFAS含有量について継続的な調査を実施し、必要に応じて基準値の設定や規制強化を検討しています。また、各自治体では地域の実情に応じた独自の取り組みを展開しています:
- 定期的な食品検査の実施
- 事業者への指導・啓発
- 住民への情報提供
- 代替品の普及促進
5.3 PFASフリー製品を選んでみよう
消費者として私たちができる最も直接的な対策の一つが、PFASを含まない製品の選択です。近年、環境意識の高まりとともに、PFASフリーをうたう製品が増加しています。
具体的には以下のような製品でPFASフリーのものを選ぶことができます:
| 製品カテゴリー | 代替品の例 | 選択時のポイント |
|---|---|---|
| 調理器具 | ステンレス、鉄、セラミック製 | 「PFOA/PTFEフリー」表示を確認 |
| 食品包装 | 紙製、生分解性素材 | 撥水加工されていない製品 |
| 衣類 | 天然素材、無加工品 | 撥水・防汚加工の有無を確認 |
製品選択時には「PFAS-free」や「フッ素フリー」などの表示を確認し、メーカーの環境方針も参考にすることが重要です。ただし、完全にPFASを避けることは現実的ではないため、可能な範囲での配慮に留めることが大切です。
PFASへの対策は個人レベルから社会全体まで多層的なアプローチが必要です。正確な情報に基づいて、過度な不安を抱くことなく、できる範囲での対策を講じることが重要といえるでしょう。
6. まとめ
6.1 PFASと正しく向き合うために
PFASは「永遠の化学物質」として知られ、環境中で分解されにくく体内に蓄積しやすい特性があります。発がん性のリスクが指摘されており、世界各国で規制が進んでいます。
日本でも多摩地域や沖縄県などの一部の地区で暫定目標値の超過が報告されていますが、日本の水道事業においては、定期的な水質監視と必要に応じて適切な措置が施されています。
6.2 今後の動向と私たちにできること
国や自治体による監視体制の強化と規制の拡充が進む一方で、私たち個人レベルでも対策を講じることができます。浄水器の活用、PFASフリー製品の選択、テフロン加工調理器具の適切な使用などが有効です。
完全に避けることは困難ですが、正しい知識を持ち適切な対策を取ることで、PFAS汚染のリスクを最小限に抑えることが可能です。 環境省では、PFASに関する総合的な対応策の検討や、化学的知見等の充実を図りながら、国民への分かりやすい情報発信がなされていますので、今後も最新情報に注意を払い、PFASに対して過度な危機感を抱くのでは無く、正しい知識を身に着けて冷静に対処していくことが大切です。


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