築地市場の移転先として決まった豊洲新市場で土壌汚染の対策が十分でなかった問題が巷間を騒がせています。「うちの現場は大丈夫だろう?」と不安を覚えている方も多いかもしれません。実際に建物下の土壌の状況がどうなっているのかは、その上で働く人たちには全く想像もつきません。そこで今回は、土壌汚染の現場で働く人たちの苦労にスポットを当て、地下水調査や土壌汚染調査の実態について考えてみます。
土壌汚染の現場で働く
有害物質によって土中が汚され、人体や環境にさまざまなリスクを与える土壌汚染。築地市場で働く人々は、移転が決まればそのリスクにさらされることになります。豊洲新市場の予定地は、もともと東京ガスの工場があった場所で、ベンゼンやシアンといった発がん性物質が土壌に含まれていることがわかり、そんな状況で市場を開けば取引される魚や、市場で働く関係者の健康に大きな影響を与えることは避けられないでしょう。
実際に、築地市場で働く人たちは不安を抱えています。これから20年、30年と働くことを考えれば、汚染された地下水により、病気にかかるリスクも高まります。土壌の汚染には地下水汚染によるリスクの他、汚染された土に直接触れる直接暴露のリスクもゼロではありません。仮にこのまま豊洲市場に移転が決まり、その現場で働くとなると、「水もうかつに飲めない。土にも触れない」という意識環境の中で労働を強いられることになるのです。
汚染物質がどんな形で付着しているのかわからない
汚染物質は目に見えるものではありません。そのため、自分の体に有害物質が付着したかどうかも分かりません。現場では、汚染物質の存在も、付着の有無も確認しようがありませんので、常に不安におびえながら勤務することになります。
もし現場の土中が有害な物質に汚染されている事実が判明すれば、いつ自分の体が汚染されてもおかしくないことを想定して動く必要があるでしょう。つまり、「常日頃から浄化対策を万全にする」状態で飲食や手洗い・うがいをする必要があります。日常的に衛生管理を徹底することで、体の健康を守るだけでなく、汚染されていない現場への2次汚染リスクも低減できるでしょう。
汚染物質から体を守るには、手洗いやうがい、お風呂での全身洗浄など、入念に体を洗い清める方法を地道に続けるしかありません。手洗いはもちろん石けんを使って一本一本の指からその間まで、きれいに洗い、汚れを落としていきます。手のひらなどはよく意識して洗うかもしれませんが、指先や手首、指の間などは不十分になりがちです。洗い落としがないよう、すみずみまで石けんでよく洗い、終わった後は清潔なタオルで拭き上げるようにしてください。
また、土壌汚染対策法に指定されている有害物質26項目のうち、ベンゼンなどの第一種特定有害物質(VOC)11項目は揮発性であり、大気中に拡散していれば鼻や口から体内に取り込む可能性もあります。用心のために常時マスクを着用するのも身を守る手段の一つとなるでしょう。
地下水調査の重要性
土壌汚染物質は何も土中だけを汚染しているものではありません。地中を通っている地下水もまた、重金属や化学薬品、油などの人体の健康や生活、環境に害を及ぼす物質が含まれます。つまり、土壌汚染と地下水汚染は切っても切り離せない環境問題といえるでしょう。
地下水汚染の汚染源は、土地の状況や環境によってさまざまなケースが考えられます。たとえば豊洲新市場の場合、東京ガス工場の跡地であり、そこからベンゼンなどの発ガン物質が地中に浸食し、土壌や地下水を汚染したことによるものです。このように、地下水汚染の汚染源は、工場のような局地汚染もあれば、汚染された河川が有害物質を運んできて汚染源が拡大する広域汚染もあります。
また、生活に使う水を地下水からの供給で賄っている家庭も多く、地下水が汚染されればそれだけ人体に深刻な影響が懸念されます。農林水産省の調査によると、生活用水の地下水依存率は23.3%で、工業用に次いで大きな割合です。全国の地下水は、工業用水、生活用水、農業用水で全体の8割を占めるといわれます。地下水が汚染されれば、普段の生活が脅かされることを意味するのです。
土壌汚染は目に見えるものではない
土壌汚染の調査は具体的にどのような流れで行われるのでしょうか?自主的な調査であれ、条例に基づく義務的な調査であれ、その流れは基本的に変わらないといえます。大まかな流れを以下に記します。
1.調査計画の立案
目的に沿った最適な調査計画の立案作成。住民対応、計画書や報告書のクロスチェックなども同時に行います。
2.地歴調査
対象土地の利用履歴を調べ、汚染の可能性を調査します。
3.表層土壌の調査
表層面の土壌を採取し、分析・調査。
4.詳細調査
10メートルのボーリング調査を実施、地下水の汚染も含め、汚染深度を調査します。
5.浄化対策
調査結果をもとに、有害物質の種類や、汚染状況、土地利用や条件に合った最適な浄化対策を計画し、実行に移します。
土壌調査にかかる費用については、調査会社によってさまざまです。費用の内訳は、「コンサルティング費用」「地歴調査の費用」「表層土壌調査に関する費用」「深度方向土壌調査の費用」に分けられるでしょう。表層土壌調査や深度方向土壌調査は、調査する対象の土地の広さによって料金が設定されます。
土壌汚染は、そこで働く関係者や、生活する人々にさまざまな形で影響を与えます。根本的に解決するには、しかるべき調査と対策が必要ですが、手洗い・うがいや洗浄など、個人でもできる範囲内で対策を取り、体の健康を守っていきましょう。
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