「築地問題」の土壌汚染対策で盛り土をすることは正しかったのか?

土壌汚染

東京都の中央卸売市場の移転先に決まった豊洲新市場で、安全措置の盛り土が行われていなかった「築地市場の豊洲移転問題」。土壌が汚染されるリスクがある場所で、必要な対策を怠れば、環境や人体の健康にどのような影響を及ぼすのか?また、盛り土で完全に土壌内の有害物質による環境被害は防げるのか?築地市場の豊洲移転問題から土壌汚染とその対策のあり方について考えてみます。
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土壌汚染された状態の土地に食品を扱う施設を作るということ

私たち人間が生活を営む上で、なくてはならないものは、水と空気、そして土壌です。土壌には、さまざまな地中の生物が生息し、私たちが口にするお米なども土壌に含まれる水分や養分が育みます。

つまり、土壌汚染とは、私たち人間が生きるうえで必要な土が、何らかの原因で汚染されてしまった状態をいいます。きれいであるべきはずの地中に、有害な物質に汚染された地下水が浸水したり、不適切に扱った有害物質をそのまま土中に染みこませたりすることで、汚染のリスクは高まります。

もし、食品工場の下の土壌が、有害物質によって汚染されてしまった場合、地下水の摂取によって食材や食品製造物に著しい影響を及ぼすケースが考えられます。汚染された地下水を使用しての衛生管理は、食品の大量回収や大量廃棄にもつながり、それを口にした消費者も健康被害のリスクにさらされます。不祥事が発生したときの社会的影響も計り知れないでしょう。

盛り土で避けられる土壌汚染

土壌環境の汚染による環境被害やそのリスクを調べた結果、基準値を超えた場合、土地の面積によっては、都道府県知事等は環境対策の要措置区に指定し、安全が担保できる対策を講じる必要があります。その際、土壌の汚染状態や土地の利用法に応じた措置が講じられるでしょう。以下は、主な措置内容です。

原位置封じ込め

汚染された土壌の側面に、水が浸透しない深さの層まで、鋼矢板などの遮水物のある構造物で取り囲み、有害物質が地下水経由で敷地内に流出するのを防止します。構造物が破損しないよう経過を見守り、徹底して管理することが大切です。

遮水工封じ込め

遮水シートを地中に設置し、その内部に有害物質に汚染された土壌を封じ込めること。これも周囲を囲んだ構造物が破損しないよう適切な管理が大切です。

土壌汚染の除去

汚染された土壌部分を掘り起こし、区域外へ搬出する作業。都道府県知事が許可した「汚染土壌処理施設」で処理する必要があります。また、掘削以外にも土壌を浄化することで基準値以下まで数値を下げる方法もあり、これは熱処理や洗浄処理、化学処理などの方法で行います。

土壌入れ換え

地表から深さ50㎝までの汚染土壌を取り除き、無害の土壌に移し替えて環境被害・健康被害を防止する方法です。

盛り土

有害物質に汚染された土壌の上を砂利などで覆い、さらに厚さ50㎝以上の基準値以下の土壌で覆い被せる手法です。

問題は、これらの方法を試みれば、土壌の汚染による健康へのリスクはゼロになるのか?ということですが、築地市場の豊洲移転問題で取り沙汰された盛り土も含め、多くの汚染された土壌はそのまま地中に放置され、有害物質の完全な除去にはなっていません。そのため、「本質的な汚染対策からはほど遠い」という見方もあります。

もし土壌汚染に気づかぬまま豊洲新市場が作られてしまったら

土壌汚染の調査時期について、いつどのような方法で土壌の汚染具合を調査するかは、その目的によって異なります。その調査は、次のようなときに必要となります。
 

特性施設を廃止するとき

土壌汚染対策法で指定された特定の施設の運営を廃止する場合、廃止より120日以内に土壌環境の汚染調査の結果を報告する義務があります。

土地の売買や再評価をするタイミング

土地の売買など、権利移動が生じる場合に土壌検査を行います。調査内容は、建てる建物や目的によって異なります。

その他、自治体条例に定められている場合や、土地の持ち主が自主的に調査したい場合に調査が行われます。

築地市場の豊洲移転問題の場合、築地の移転先をどこにするかの議論の中で、有力候補地の1つである豊洲の土壌調査が行われました。既出の現行法では、土壌汚染による健康への影響を「地下水の摂取などによるリスク」と「直接摂取によるリスク」の2つに分類しています。「直接摂取によるリスク」は、有害な土壌に直接触れることで健康に被害を及ぼすリスクです。豊洲新市場がそのまま汚染された土壌環境の場所に作られた場合、「地下水摂取などによるリスク」つまり、汚染物質を含む地下水を使う環境の中で食材を扱えば、食品汚染のリスクが高まったことが予想されます。

すべて盛り土をすることが正しいのか?

今回の問題で、もっとも適切な対処方法は、調査結果に基づき、汚染され土壌から有害物質の浸出ルートを遮断する盛り土などを確実に行うことでした。そのための土壌汚染対策法があり、リスク度や目的に応じてさまざまな対策と措置の方法が定められているのです。

盛り土による対策は、汚染された土壌を隔離するうえでは一定の効果があるものの、有害物質はそのまま残されているという課題があります。完全に汚染された土壌を除去するための抜本対策を盛り込むよう、法律の改正まで見据え、検討する必要があるでしょう。

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